お天気について・その2 [気候]
アイルランド人の持ちネタなのかもしれないが、「何を勉強しているの?」、「アイルランドには慣れた?」、「なぜ中世初期アイルランド史なの(これはアイルランド人でなくても聞くけど)」という質問に必ず「アイルランドの天気はどう?」という質問が入る。あるいはそれだけ聞く人もいる。天候の話は、共通の話題のない人たちの間のネタとしては最適ということだから、聞かれるのかもしれないが。
彼らにとってはやっぱりこの気候は不満がある、ように聞こえる。しょっちゅう降ってくる雨、時には風。まあ、ともかくも雨、あるいは湿気について。humid とは言わないのね。damp なのね。生きた英会話(笑)。
私としては今のところそれほどひどい天候に会ってないせいもあって、それほどひどいとは思わないけど、話を合わせるために「雨がね」とか言ったりしてる。やはり、話題のない時こそ天候の話・・・。
ルームメイトのアイリッシュの女の子(30直前の人に女の子、もないけど、彼女は20代半ばに見える)がテレビで得た情報によれば、今年の夏はとっても暑かったので、今年の冬はとっても寒いらしい。なにーっ。そして同じアイルランド中世史を学んでいるアイリッシュの女の子(21歳なので、紛れもなく女の子だ)によれば、今年の冬はいつもよりも雨が多いだろう、という予想。すでにいつもより雨が多いらしい。そうなの?
勉強する分には雨はあんまり関係ないしね、と強がってみせる。しかし寒さはなぁ。まあ、今日は天気が良かったんだけど。あんまり寒くなかったし。
これからの方向性 [学問]
「世俗社会制度への教会組織受容に対する教会側自身の働きかけから、教会と俗人の関係」(相変わらずのタイトル付け下手)を研究したいんです、みたいな感じで受け入れてもらってなんちゃって留学して早1ヶ月。日本の大学の指導教官(!)の軽い質問から激しく刺激を受けて、「俗人」→「市井の俗人」へと変化し、しかもなにやら本格的に「死者」とか「墓地」とか「死の儀礼」とか、そっちに移行しつつある私。うへー。基本的事項が抜け落ちている私が、そんな方向に走っていいのか? 2年で論文書き終わるのか? 気が付いたら考古学やってました、ってことにならないのか? と悩みを抱えつつ、とりあえず今週と来週は、先週まで考えていた教会による「司牧活動」に関する論文を読んで過ごす。たぶんこれだってあとで使えるだろう、という甘い考えで。
まあ、どっちにしろ8世紀だろうが9世紀だろうが10世紀だろうが、俗人全員がある程度教義を理解したキリスト教徒のわけないんだから、教会側による俗人の働きかけはとっても重要だろう、ということにして。それに結婚と死っていうのは人間生活の上で避けて通れないでしょう(私にとって前者はとっても遠い存在だが)。
それにしても一次史料が読み進めない。こっちの方もやばい。ああ、すでに焦燥感一杯なのにブログとか書いてる場合か? しかもデジカメを手に入れたのでそれにも時間を費やしちゃったりしてるし。現実逃避ばっかり。
ということで、授業受けてる建物のやや遠景。雨降ってたからさ、屋根ないとね。このあとコートのボタンが取れてることに気が付き、探し回った。発見。良かった。
萩尾望都 『バルバラ異界』 [読書感想文]
全4巻。本日最終巻を入手、読了。
物語の最初は非常にほのぼのとしたファンタジー調でスタートし、全作『残酷な神が支配する』の重々しく、痛々しく、読んでいて全然楽しめなかった物語と違い、新作はもう少し軽くて楽しい物語になるに違いない、という予感を感じさせる。
が、
・ほとんどすべての食べ物にアレルギーを持つ少女が、父親と母親の心臓を食べて以来9年間眠り続けている。
・若いころ結婚した父と母が離婚し、どちらともうまくコミュニケーションをとってこれなかった(これは両親側にも責任あり)ため、世界に裏切られた、と絶望している少年。
と、実は駒が重い背景を持っていた。
物語の序盤から中盤まで、舞台としての「ファンタジー世界」と近未来の日本がなんのつながりも見えないまま交互に現れ、それなのに少女と少年の世界と夢が微妙に繋がっていることが分かる。それに付属して、複数の、しかし何らかのつながりがあると予感させる謎の人物たちが絡んでくる。その共通項は、アレルギー、「バルバラ」という言葉、火星、夢。なぜ繋がっているのか、なんの関わり合いもないはずの少女と少年が結びついているのはなぜか、謎の人物たちはいったい誰なのか、といった主要な「謎」を軸に、大人になりきれない、父親としての感情もどこかに置いてきてしまったような父と、それと少しずつコミュニケーションをとっていく少年の、親子関係の再構築という物語が同時に進む。この状態が3巻まで続く。
そして3巻の最後から4巻の半ばにかけて、謎の人物たちが実はたった一人の人物であり、彼が謎のほとんどの鍵を握っていることが明らかになるにつれて、徐々に謎解きが進み、最終話の一つ前で取り返しのつかない悲劇が起こり、最終話にかけて一気に加速して物語が収束する。
再び萩尾望都は長編にチャレンジするのではないかと、3巻まで思わせておきながら、4巻で怒濤の最終話に至らせる、その手腕はすごいし、物語のプロットが常人の想像を超えてしまっている。やはり萩尾望都は短編〜中編までの作者だ、と改めて思わせられた。
あまりの展開に感想が浮かばないのだが、ハッピーエンドのようでいて、実はちょっと切なくて、かなり怖い終わり方になっている。誰もが一度は考えてしまうであろう、「胡蝶の夢」的なお話だ。「この世界が実は誰かの見ている夢だったら?」これは結構怖い。気が付いてしまったら、本当に恐ろしい。
読後感は『銀の三角』と似ているかな。すべてが理解できたわけではないが、これでいいか、と思わせてしまう強力な魅力。
アマゾンドットコム [買ってしまった本]
どっとこむ、で頼んだわけではないが。昨日付で本が届いた。うれしい。
アマゾン・jpより、
聖者と学僧の島 [アイルランド的小咄(雑学)]
とかつて呼ばれたアイルランドだが(用語が古いし)、寮の部屋から外を見ると、向こうの建物(同じ寮の違うビルディング)の2階(日本で言うと3階)の部屋に、部屋の電気を点けず卓上ランプだけで熱心に何かを読んでいる外国人が(私の主観で「外国人」。私の方が実際すっごい外国人なのだが)見える。しかも横顔しか見えない。微動だにせず熱心に読んでる姿と、あまり大きくない窓越しに見える姿が、「学僧みたいでステキ」と思わせる光景であった。
そんな姿をぼーっと眺めながら夕飯に肉じゃがを作る私。
あっという間に目が悪くなる気がするのだが、アイルランド人は薄暗くても気にならないらしい。南向きでない部屋での授業は、たいてい薄暗いが、誰も電気を点けようという気にならないのが不思議だ。
大学院への留学 [study in Dublin]
「西洋史を学んでいる学生は、博論書く前に研究対象国に赴いて1年は留学するべき」ということなので、留学してみた。その顛末を。
博士課程の2年目で行くつもりは始めからあったので、2年目の秋頃から何となく行動を開始してみた。行きたい大学は決まっていたので、そのHPへ行って、まず指導教官になって欲しい先生に当たりをつけた。これもほぼ決まっていたので、名前を探して、メールアドレスを調べる程度ですんだ。
残念なことにUCDの当時のホームページは情報が古く、学費もまったく分からない。それでもともかく指導教官が受けてくれるかどうかが重要なので(これって日本の大学院にも当てはまるな)、失礼ながらメールを送った。送り返されてくる。再びトライ、送り返されてくる。「こんな宛先ありません」と。途方に暮れた。これが11月のこと。
今度は関わりのありそうなところに片っ端からメールを送った。Faculty of Arts, 国際学生課(International Offce)、歴史研究科(School of History)。「○○先生にメールを送ったのですが、送り返されてくるのだが」という質問も入れて。さらに、指導教官になってもらいたい先生には手紙を送った。友人の話&私の経験から、優先順位は手紙>ファックス>メール、と考えていたので、先生の方は緊急性も考えて最上位の手紙を送らせていただいたのだ。
案の定、メールだとお返事がこない。これは経験済み。次はファックス攻撃。そうしたところ、国際学生課よりメールでお返事が。ファックスを歴史研究科等にすぐに送ったので、向こうから返事が来るだろう、とのこと。やっと、来た。そこで、指導教官の正しいメールアドレスを知る。ちなみにこの時点で先生からお返事は来ていない。これで12月に突入。
先生からいいお返事がもらえるまではそれ以外の行動は慎もう、というか、かなりやる気がなくなっていたので(しかもバイトの塾講が冬期講習直前でてんてこ舞い)、しばらく放置することにした。この時点ではまだTOEFLの状況についてもつかんでいなかった。(最後に受けたのが10年も前だから、何も覚えていなかったし、所属先も変わったので、どこで用紙をもらえるか、−−−用紙、と言ってる時点で時代に取り残されていたのだが−−−まったく皆目ついていなかった。)
新しい展開が始まるのは年が明けてから。
今思うと、この時期はテスト期間中、冬休み直前などという、学校側にとってもてんてこ舞いの状況だったのだと思う。10月ぐらいから準備を始めれば良かった。
以下次号。
久しぶりに [映画。漫画。]
街に出てみた。2週間ぐらい近寄ってなかったが、今回は必要に迫らせて。
で、見つけたのが、クレイアニメーションの傑作シリーズ(と私が勝手に断定)、
の、続編。でっかい広告がバス停に貼られていた。時には街に出てみないとだめねぇ、ということで、帰ってきたら都合のいいことにルームメイトが今日の新聞を買ってきて読んでいる。ちょっと見せてもらった。なんだかやけに、映画と映画の間の時間が長いじゃないか、『ウォレスとグルミット』なのに。で、ネットでダブリンで公開の映画を調べてみた。
80分。クレイアニメーションは長いと微妙なんだよねぇ。短いからいいんだよねぇ。確かこの監督ってこのあと長編作ってちょっと失敗してたよねぇ。
全3作はみんな20分ぐらいしかなったのだ。しかも、キャラクターが良かった、というのもあってヒットしたんだと思う。「クレイアニメーション」だからヒットしたわけではない、と。でもかなり気になる。昨日から公開中。
クレイアニメーションといえば、NHK教育でやっていた『ニョッキ』、好きだったなぁ。
Etchingham, C. Church Organisation・その2&論評 [学問]
結局全部読むのはやめて、6章で終了。時間がかかりすぎる。彼の仮説の上に今後の説明が続くので、その仮説について疑問を持ちながら読み続けるのは苦痛だ。
読んだ感想としては、良い点では、新たなネタを教えてくれたこと。埋葬料とか死後のかなり強制的な教会への財産の一部の譲渡とか。これもすべての人々に適応されたわけではないようなので、そのあたりで突っつくところがないか考慮中。
悪い点というか、反面教師というか、できればもらってしまいたい技術というか、逃げ上手な論理の展開をする人だ。それぞれの章には非常に簡略な結論がつくのだが、ambiguousとか、alternativeとか、「これについては以下に詳述するので、ここではこれだけ言っておけば十分」などという表現を使って、結論を述べるのである。そうするとそれぞれの結論を読み終えて得た感想は「コンテキストよね、重要なのって、やっぱ」という、そんなこと今更言われたってぇん、というしょうもない状態で終わる。
これまで研究者の間で、30年にもわたって(それなりに変化はあったが、大本の部分は変わらず)「定説」とされてきた仮説に、果敢に疑問を投げかけて新たな視点を提示する、という研究姿勢は重要だし、すばらしいとは思うが、代わりに彼が掲げる新たな「教会組織」がイマイチはっきり見えない、っていうのも時間をかけて読みにくい英文につきあってきた身としては、少々物足りないところであった。どうせならもっとでっかく出ようよ。
これは著者の博論を広げたものらしい。
で、とりあえず論評も読んだ。あ、Peritiaの何号からかメモってくるの忘れた。来週にでもメモってこよう。
論評はD. O Croinin(ファダ省略)で、まずページ数が驚き。7ページ近くあります。この文量、なんだかデジャヴ・・・。と思ったら、その通り、激しいダメ出しの嵐(以前にもかなりの量の論評で、ダメ出しの嵐を呼んだことあり。Bitelの本への論評でした。はは)。
EtchinghamのそもそものスタートとなったのはSharpeの1984の論文だが、本書にSharpeの陰がしばしば現れる、
Sharpeのその後の論文は、1984の論文での結論と違ったものだが、そのあたりをSharpeが自説を進めるのにちゅうちょしたからだと説明して、両者の矛盾点をごまかそうとしてる、
7世紀から8世紀の転換についての話なのに、タイトルの通り650年以前の史料にあたってない、あるいは敢えて提示しない、
そもそも史料として使っているのがcritical editionで、しかも訳に関してはかなりBreatnach(中世初期アイルランドの俗語法律文書の近年の権威。私と同じ分野の研究者のダブリン時代の指導教官でもある)から提供してもらってる、
自説に都合の悪い情報は一切出さない(これってまあある種の王道って気もするけど)、
果ては「くどい」「饒舌すぎ」等々。
最後にちょっとだけ褒めてあるけど、これもかなり辛辣。中世初期アイルランドの教会組織に関する現存する法律文書の研究のためには非常に有益で、研究者がほとんどいない分野での議論をより活発にするであろうことは非常に有用であろう、と。
爆弾を投げ込んだような論文である、ということですな。ある種「異端」な学者であるのだが、そういう意味で中世初期アイルランド史の世界では知らないものはいない研究者である。ちょっとうらやましいかも。博論で爆弾、っていうのは、後先考えなければしてみたい冒険ではある。
ちなみにO Croinin。他にもあるけど、概説書として。
Early Medieval Ireland 400-1200 (Longman History of Ireland)
- 作者: Daibhi O Croinin
- 出版社/メーカー: Longman Group United Kingdom
- 発売日: 1995/12/13
- メディア: ペーパーバック
Bitelのダメ出しをもらいまくった本。中世初期アイルランド史をやる人は、参考文献に載せてもいいけど、参考にしてはいけない人。断言しちゃう。
Land of Women: Tales of Sex and Gender from Early Ireland
- 作者: Lisa M. Bitel
- 出版社/メーカー: Cornell Univ Pr
- 発売日: 1996/05
- メディア: ハードカバー
EURHISTXX [学問]
戦後に関する学会。「あなたの学校の院生などにお知らせしてね」というメッセージとともに送られてきたのお知らせしてみる。
http://www.tcd.ie/iiis/pages/events/postwarperiods.php
自分の研究とは直接関係がないので、ほとんど読んでいないけど。
提携校 [study in Dublin]
ICUがUCDと提携、というか、UCDの語学学校と提携してELPの1年生の授業の一環として夏休みの時期にかなりの生徒が来る、というのは知っていた。8年前から行っているはず。
早稲田も提携していて、国際教養学部の生徒さんが10人ぐらい、artsに交換留学しているのは、今年の夏に2週間だけ語学学校にいたときに知った。交換留学っていい制度よねぇ、しかもアイルランドの大学と。
と思っていたら、その早稲田の学生さんの話によると、慶応も提携校となったそうだ。さらに東大もそうなるという噂。
DCUは上智と提携しているはずだし。結構提携校、あるんじゃないすか。私の学部時代と比べて、アイルランドで勉学、の状況は良くなっているのだなぁ。アイルランドの経済が好調の故なのだろうか。
もう少し遅く生まれてたら良かったのかもしれない。大学入学の競争率も、私の時に比べたら恐ろしく低い数字になったし、あと2年で全入時代だしねぇ。
ICUとUCDとDCUと、こんがらがる。ちなみに三つともUは当然Universityだが、Cはそれぞれ違う。Christian, College, City。
意味はないけど。