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Genealogies [学問]

先週に引き続いて、今日はgenealogieについての講義(担当は私の指導教官)。ちなみに辞書を引くと「系図学」と書いてあるが、ちょっと違う気がする。日本史用語に違いない。

土曜日に生活リズムを崩したおかげで、一番眠い時間に授業だ。はて。

アイルランドに残っている系図は基本的には、○○は●●の息子、●●は□□の息子、□□は■■の息子(ループ)とさかのぼるもので、ただの名前の羅列(だけってわけでもないけど、ほとんどそう)。最終的には「神話的な人物」にたどり着くので、ある地方の多くのtuath(かつてはtribeと訳されていたので、日本語では「氏族」と言われていたが、これはすでに使われていない(あくまでも学問の世界では)。lay-communityでいいのかな? 中世初期アイルランド史若手研究者(含む自分・笑)の間では、「トゥアス」とカタカナで表記し、註を入れることでとりあえず意見が一致している)は、その地方の神話的人物にたどり着く。

ということは、その神話的人物から始めれば、かなり多くのトゥアスが含まれた家系図を復元できる、ということになるのだが、それを指導教官がやっていて、今日はそれを見せてもらった。ルーズリーフ10枚ぐらい貼り付けてある、横に長ーく。ちっちゃい字で書いてある・・・。1枚書いては「足りない」と言うことで貼り付け、さらにまた貼り付け(ループ)、という作業で作り上げたものらしい。それは無理だ。

さらに、genealogiesを使う場合、実際の地図(山や川がちゃんと書き込まれてあるもの)に照らし合わせて研究することが大切、ということで、その上に透明のトゥアス名や、その関係、12世紀に出来た教区を書いたものを付け足す。これだとgenealogiesが纏められた時代+12世紀だから私の研究より少し後だ、と安心。

最後の最後に、大陸と違ってシャルトが無くて、narrativeばっかりだけど、やり方によってはgenealogiesと地図を使って、教会財産(土地)の点々とした散らばり具合を研究することも出来るのだ、と言われた時点で目が覚めた。おもしろそうではないか! でもあの系図(しかも中期アイルランド語)を使って、こんな根気のない人間にそこまで出来るのだろうか。おもしろそうだけどなぁ。

いつかやろうかな、と心に予約を入れてとりあえず終了。とりあえず、これ↓。


Corpus Genealogiarum Hibernicarum (Irish History & Genealogy)

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Dublin Institute for Advanced Studies
  • 発売日: 1962/12
  • メディア: ハードカバー


トールキン 『指輪物語』セミナー [学問]

直接自分の学問に関係ないけど。

本日、History Society主催、J博士による『指輪物語』セミナーに参加。そのあとのレセプション+ワインには、行かなかった。眠くて死にそうだったので。

結論は、イギリス人の言語学者にして中世史家(Medievalist)、そしてベーオウルフ研究者により、イギリス人(Englishmen)のための新たな神話、「新・ベーオウルフ」として創作されたのが、『指輪物語』であり、単なるアレゴリー(悪対善、とくに20世紀の世界大戦やヒットラー、スターリンなど)ではない、ということであった。そしてその創作の背景に大きくあるのは、「言語学者」としての、言語創作などに対する好奇心、楽しみ、ということ。アレゴリーの否定は本人もしていたそうだが。

大変興味深かったのが、キリスト教の影響について。すなわち、世界のために過酷な重荷を背負って自分を「犠牲」にするフロド=キリスト、ガラドリエル=マリア、サウロン=サタン。フロドとサウロンに関してはいいとして、ガラドリエル=マリア説はちょっと受け入れがたい。中世初期のマリアイメージだと考えると多少はあり得なくもないが。中世後期、特にルネッサンス以降の「ピエタ」のイメージのマリアだと、ガラドリエルの凛としたイメージと合わない。彼女に「母」としてのイメージは抱けないだろう。

それから、この「新しい神話」が、英雄を主人公とせず、普通の、humble(どちらかというと自分の身分は低いってことを十分に認識しているという意味で)な人物が主人公である、ということ。『指輪物語』、特に原作を読んだ人なら分かるが、その真の主人公はサム・ギャムジーなのだ。

ちなみに、博士も聴衆もほとんどが、映画に対しての評価はあまり高くないように感じた(私も含めて)。映画のシーンが入ると、苦笑が漏れたり、博士もギャグとして入れている感じだったし。「映画の唯一いいところは云々」「どっ」と大笑い、という流れで。一緒にいた知人は、映画の切れ目が原作と違うところであったことや、サルーマン、そしてヘルム渓谷の戦い等に文句プンプンであった。

原作を読み始めるという方は、是非、最初の「ホビットについて」は飛ばして(最後まで読んでから読んだ方が、楽しい)。「待ちに待った誕生日会」から読むことをお奨め。そして、日本語の映画のタイトルがいかに変であるかを知って欲しい。『ロード・オブ・ザ・リング』では、大切な意味が抜けているのに。

文庫 新版 指輪物語 全9巻セット

文庫 新版 指輪物語 全9巻セット

  • 作者: 瀬田 貞二, 田中 明子, J.R.R. トールキン
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1997/02
  • メディア: 文庫


指輪物語 (10)  新版 追補編

指輪物語 (10) 新版 追補編

  • 作者: 瀬田 貞二, 田中 明子, J.R.R.トールキン
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2003/12
  • メディア: 文庫


↑『追補編』は、歴史好きにはたまらない。本編を読み終わってからこれを読むと、非常に楽しめる。実は私は『追補編』が一番好きだったりする。


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