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萩尾望都 『バルバラ異界』 [読書感想文]

全4巻。本日最終巻を入手、読了。

物語の最初は非常にほのぼのとしたファンタジー調でスタートし、全作『残酷な神が支配する』の重々しく、痛々しく、読んでいて全然楽しめなかった物語と違い、新作はもう少し軽くて楽しい物語になるに違いない、という予感を感じさせる。

が、
・ほとんどすべての食べ物にアレルギーを持つ少女が、父親と母親の心臓を食べて以来9年間眠り続けている。
・若いころ結婚した父と母が離婚し、どちらともうまくコミュニケーションをとってこれなかった(これは両親側にも責任あり)ため、世界に裏切られた、と絶望している少年。
と、実は駒が重い背景を持っていた。

物語の序盤から中盤まで、舞台としての「ファンタジー世界」と近未来の日本がなんのつながりも見えないまま交互に現れ、それなのに少女と少年の世界と夢が微妙に繋がっていることが分かる。それに付属して、複数の、しかし何らかのつながりがあると予感させる謎の人物たちが絡んでくる。その共通項は、アレルギー、「バルバラ」という言葉、火星、夢。なぜ繋がっているのか、なんの関わり合いもないはずの少女と少年が結びついているのはなぜか、謎の人物たちはいったい誰なのか、といった主要な「謎」を軸に、大人になりきれない、父親としての感情もどこかに置いてきてしまったような父と、それと少しずつコミュニケーションをとっていく少年の、親子関係の再構築という物語が同時に進む。この状態が3巻まで続く。

そして3巻の最後から4巻の半ばにかけて、謎の人物たちが実はたった一人の人物であり、彼が謎のほとんどの鍵を握っていることが明らかになるにつれて、徐々に謎解きが進み、最終話の一つ前で取り返しのつかない悲劇が起こり、最終話にかけて一気に加速して物語が収束する。

再び萩尾望都は長編にチャレンジするのではないかと、3巻まで思わせておきながら、4巻で怒濤の最終話に至らせる、その手腕はすごいし、物語のプロットが常人の想像を超えてしまっている。やはり萩尾望都は短編〜中編までの作者だ、と改めて思わせられた。

あまりの展開に感想が浮かばないのだが、ハッピーエンドのようでいて、実はちょっと切なくて、かなり怖い終わり方になっている。誰もが一度は考えてしまうであろう、「胡蝶の夢」的なお話だ。「この世界が実は誰かの見ている夢だったら?」これは結構怖い。気が付いてしまったら、本当に恐ろしい。

読後感は『銀の三角』と似ているかな。すべてが理解できたわけではないが、これでいいか、と思わせてしまう強力な魅力。


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