Etchingham, C. Church Organisation・その2&論評 [学問]
結局全部読むのはやめて、6章で終了。時間がかかりすぎる。彼の仮説の上に今後の説明が続くので、その仮説について疑問を持ちながら読み続けるのは苦痛だ。
読んだ感想としては、良い点では、新たなネタを教えてくれたこと。埋葬料とか死後のかなり強制的な教会への財産の一部の譲渡とか。これもすべての人々に適応されたわけではないようなので、そのあたりで突っつくところがないか考慮中。
悪い点というか、反面教師というか、できればもらってしまいたい技術というか、逃げ上手な論理の展開をする人だ。それぞれの章には非常に簡略な結論がつくのだが、ambiguousとか、alternativeとか、「これについては以下に詳述するので、ここではこれだけ言っておけば十分」などという表現を使って、結論を述べるのである。そうするとそれぞれの結論を読み終えて得た感想は「コンテキストよね、重要なのって、やっぱ」という、そんなこと今更言われたってぇん、というしょうもない状態で終わる。
これまで研究者の間で、30年にもわたって(それなりに変化はあったが、大本の部分は変わらず)「定説」とされてきた仮説に、果敢に疑問を投げかけて新たな視点を提示する、という研究姿勢は重要だし、すばらしいとは思うが、代わりに彼が掲げる新たな「教会組織」がイマイチはっきり見えない、っていうのも時間をかけて読みにくい英文につきあってきた身としては、少々物足りないところであった。どうせならもっとでっかく出ようよ。
これは著者の博論を広げたものらしい。
で、とりあえず論評も読んだ。あ、Peritiaの何号からかメモってくるの忘れた。来週にでもメモってこよう。
論評はD. O Croinin(ファダ省略)で、まずページ数が驚き。7ページ近くあります。この文量、なんだかデジャヴ・・・。と思ったら、その通り、激しいダメ出しの嵐(以前にもかなりの量の論評で、ダメ出しの嵐を呼んだことあり。Bitelの本への論評でした。はは)。
EtchinghamのそもそものスタートとなったのはSharpeの1984の論文だが、本書にSharpeの陰がしばしば現れる、
Sharpeのその後の論文は、1984の論文での結論と違ったものだが、そのあたりをSharpeが自説を進めるのにちゅうちょしたからだと説明して、両者の矛盾点をごまかそうとしてる、
7世紀から8世紀の転換についての話なのに、タイトルの通り650年以前の史料にあたってない、あるいは敢えて提示しない、
そもそも史料として使っているのがcritical editionで、しかも訳に関してはかなりBreatnach(中世初期アイルランドの俗語法律文書の近年の権威。私と同じ分野の研究者のダブリン時代の指導教官でもある)から提供してもらってる、
自説に都合の悪い情報は一切出さない(これってまあある種の王道って気もするけど)、
果ては「くどい」「饒舌すぎ」等々。
最後にちょっとだけ褒めてあるけど、これもかなり辛辣。中世初期アイルランドの教会組織に関する現存する法律文書の研究のためには非常に有益で、研究者がほとんどいない分野での議論をより活発にするであろうことは非常に有用であろう、と。
爆弾を投げ込んだような論文である、ということですな。ある種「異端」な学者であるのだが、そういう意味で中世初期アイルランド史の世界では知らないものはいない研究者である。ちょっとうらやましいかも。博論で爆弾、っていうのは、後先考えなければしてみたい冒険ではある。
ちなみにO Croinin。他にもあるけど、概説書として。
Early Medieval Ireland 400-1200 (Longman History of Ireland)
- 作者: Daibhi O Croinin
- 出版社/メーカー: Longman Group United Kingdom
- 発売日: 1995/12/13
- メディア: ペーパーバック
Bitelのダメ出しをもらいまくった本。中世初期アイルランド史をやる人は、参考文献に載せてもいいけど、参考にしてはいけない人。断言しちゃう。
Land of Women: Tales of Sex and Gender from Early Ireland
- 作者: Lisa M. Bitel
- 出版社/メーカー: Cornell Univ Pr
- 発売日: 1996/05
- メディア: ハードカバー