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修道士か教会領地民か [学問]

おそらく「教会領地民」という訳ではいろいろと問題が生じるであろうが、(さらに先達の訳語を無視している、という意味でも)なんとか日本語にせよ、と言われたら、今現在の自分の能力ではこれが限界。

中世史のテクニカルタームで、特にアイルランドに関する限り、ほとんどすべてのタームに定訳がない。これに関して、日本語訳とは、日本語訳を付けるべきか、あるいはカタカナのまま残して注を付けるか、そのあたりを考えざるを得ない状況になり、とりあえず日本語に訳してみる、ということをしてみた。

このブログで書かなければ、現在の状況(アイルランドに留学中)では日本語に訳す必要性はほとんどない。でも時々は少し考えておかないと、留学終了して帰国した時大変なことになると思う。

で、表題についてだが、古アイルランドでmanach(複数形 manaig)という単語がある。元はラテン語のmonachusから派生しているので、普通に考えれば修道士、英語で言うところのmonkになるわけだが、法律文書内に現れたmanachは、通常「church/monastery tenant/client」になる。

この時期(中世初期、6世紀ぐらいから12世紀ぐらいまで)のアイルランドの、組織としてのキリスト教会は、「教会」としても「修道院」としても表せない、もどかしさがまず英語の定訳にも表れている。さらに、tenantかclientというのも、実は日本語にし難い上に、どちらの語も使われている。現在では後者が主に使われているが。

tenant/clientというのは、「封」を「領主」から借りて、1年ごとにその上がりからいくらかを貢納する人たちのことをいうのだが、まず「封」が土地ではない。なので「領主」という言い方も適切ではない。借りるものは一部の例外を除いて家畜である。貢納するものは、それ故に「牛乳」とか、「チーズ」とか、「2歳の雄牛」とかそういうもの(さらに穀物やモルト(笑)も納めたりする)。

で、manachというのはそういう関係(正しくは「契約」、しかしそうじゃないという説を採っている人もいる・・・)を教会と結んだ人のことで、結婚してるし、子供もいるし、修道士ではないのだが、じゃあ法律文書ではなく、教会法や贖罪規定書に書かれていた場合(ラテン語なので間違いなくmonachusと書かれているだろうが)、どっちなのか、というのが問題になる。

以上のような問題をはらんでいるので、表題のような問題にぶち当たることもあるし、さらに「教会領地民」という訳語がいろいろ問題を孕んでいることもお分かりいただけよう。

一次史料の訳し方、使い方は、非常に難しいね。

http://d.hatena.ne.jp/chorolyn/20060202/1138814399

ここを見て、いろんな意味で考えさせられたし、違う意味でへこまされました。ありがとう、chorolyn氏。


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コメント 2

Tkawa

ずいぶん訳語作るの難しそう。そもそも何で彼らを manach って呼ぶんですかね?内実は monachus と違うよね?というか、そもそもアイルランドって「所有」の考え方が大陸と違うのかなと、ふと思ってしまいましたよ。大陸の「所有」観ていうのが何ぞやと言うと自分はよくわからんのですが。初期中世ってどうなんでしょ。
>違う意味で~何かよくわかりませんが、大変そうだねとしか言えません。
by Tkawa (2006-02-03 02:21) 

kimuko

なんでそう呼ぶんだか、よく分かんないです。同時代人にとっては、いわゆる修道士とmanachの区別は付けてなかった、という説を唱えている人もいる。わりとそれが妥当かな、と思ったりする。
さて、大陸の「所有」観っていうのが分からないので、何が違うのかといわれてもはてさて。ふむふむ。教会に土地を「寄進」して、自らをも「寄進」してmanachになったとしても、自分の土地として「所有」してその土地で働いたりするらしいからなぁ。もう、意味分かんない。
>違う意味で
だって、証書で13世紀だと、万単位、って書いてあって、分かってたけど実際数字書かれて衝撃受けたんだもの。
by kimuko (2006-02-03 05:24) 

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